2008年07月07日 23:59
ダメです!ここに弱音を吐いてはダメです!弱音は人目につかないところで吐くものです。
というわけで前置き書き換え。
どうも疲れ果てて気弱になりがちのようです。
肝心なことを書いてなかったことを思い出しました。
炎陀将と「東方の賢者」の接点は、本当に偶然の関わりです。なにしろ、それをこれより前にうpしていたお話で設定したとき、僕がミッションのカラババ様がシャントット様だと存じ上げておりませんでしたので(つかミッション手付かずだったので)。だから、本当に彼にとって偶然の接点なのです。
一応、以前に書いた話とつながってはいるんです。
というわけで前置き書き換え。
どうも疲れ果てて気弱になりがちのようです。
肝心なことを書いてなかったことを思い出しました。
炎陀将と「東方の賢者」の接点は、本当に偶然の関わりです。なにしろ、それをこれより前にうpしていたお話で設定したとき、僕がミッションのカラババ様がシャントット様だと存じ上げておりませんでしたので(つかミッション手付かずだったので)。だから、本当に彼にとって偶然の接点なのです。
一応、以前に書いた話とつながってはいるんです。
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(26)
かすかな迷い、だろうか。
ラズファードは言葉を探すようにしばし黙していた。
得意になって持論を展開させているときのラズファードは目が輝く。そう、陽光の当たった黒曜石の表面のように輝くのだ。それが、どうだ。伏目がちにして、言い淀む。再び同じ言葉を口にした。「俺は間違っているだろうか.......」それから少しの間、ラズファードは掌で右目を覆ったままにしていた。「痛むのか」と聞かれると、黙って首を横に振るだけだった。
「アルタナ諸国は大海を隔てた対岸の存在だ。その遥か対岸の国と争うなど、どれほどの空費を重ねることになるというのか。その無意味がわかるだろう、ガダラル?」
「オレは.......オレは、皇国が西方諸国との関わりを閉ざしたことで、発展を妨げたのだと考えてきた。他と関わることは、悪く傾くこともあるが、学ぶことも必ずある。確かに皇国はいくつもの面で諸国よりはるかに優れた技術を持っているとは思うが、それだけではないはずだ」
それはラズファードの傍で施政を見てきた者としての意見とも、長く軍事に関わってきた者としての意見とも違った。もっと別の、興味とか、関心から湧いてくることだった。
まだ彼が炎陀将としてアルザビの魔笛防衛に就いていた頃、ウィンダスから来訪者があったときのことはよく覚えている。カラババと名乗る魔道士がアルザビの魔笛の接触を試みて、他の陀将らと共にそれの阻止に当たったことがあった。その魔道士の鮮やかな魔法を見たとき、彼は確信した。魔道士は名を偽っている、その正体が彼が西方の賢者と呼んでいる相手だと、はっきりと確信した。極めて速い短い詠唱、彼が行う高位魔法よりも更にその上をいく上級の魔法、改めて世界は広い、そう思った。
「そうか」
やはりラズファードは短く答えただけだった。
「間諜を行う者を、西方諸国に送り込もうと思っている。冒険者の姿態に仕上げて、というよりは、すっかり冒険者そのものにするつもりだ。面白い案だろう?興味はないか?」
「興味なんて」
ない、とは言い切れなかった。実際、ガダラルは過去に西方の賢者から書簡にて遊学の誘いを受けたことがある。成長過程の魔道士として興味はおおいにあったが、あまりに現実味が薄かった。それらはすべて素性を隠した上でのことだったからだ。もし賢者が彼の素性を知っていたら、警戒どころか敵対する者と見なすだろう。なにしろ彼は今やラズファードの近衛の一人である。その頃のか細かった賢者との関わりも、陀将の任を解かれたときに途切れさせてしまった。
「ガダラル、お前を見ていると諸外国に興味があるのがわかるよ。確かに、それらと交われば我が国も得るものは大きいやも知れん。しかしだ」
ラズファードは確かな足取りで再びガダラルの側に寄り、その肩に手を置いた。
「二十年前の水晶大戦で西方諸国は成り行きの結束を深めただけのことだ。言わば、それは呉越同舟にすぎない。諸国は人外の存在に脅かされ、結束せざるを得ない立場に追いやられた。わずか二十年前のことだぞ。その結束が時と共に脆くなっているのは、対岸の我が国から見ていてもよくわかる。西方の四国と、我が一国ぞ、今は西方の国に触るべきではない。わかるか、放っておいても西方諸国は力を弱める」
「それが、お前がアルザビの門の解放を最後まで拒んだ理由か」
「そうだ。通商に最も積極的だった連邦の腹は見えていたからな。理由はなんでもよかったのだろう。アルザビの門は決して開いてはならなかったのだ」
「しかし、そんな話を今更しても遅い。当時、開国を唱えた者たちを抑えられなかったのは事実じゃないか。そして今のアトルガンはそれを唱えた者たちの思惑通りの姿になっているのか」
ガダラルが無遠慮に問うと、ラズファードはむっとした顔つきになり、手を引っ込めた。挑発的なことを言ってしまったか、ガダラルは思ったものの、それが心の乱れから出てきたものだとあとから気づいても遅かった。
「間諜を行う者たちを総括する役目をガダラル、お前に任せたいと思うのだが」
「オレが?間諜?」
「いやいや。お前に諜報が出来るとは思っていないよ。飽く迄もそれらの元締めだ。集めた情報をまとめ、俺のところまで上げる。判断を下す権限ももちろん与える。先ずは人選からになるが」
「なぜ、オレに?」
「陀将として勤めてきた間に多くの冒険者と接してきただろう、そのときの感覚に恃みたいと思うからだ。先の長い計画になるぞ、これは」
なんとなく、ラズファードの意図のようなものが見え隠れしている、と思った。それを自惚れだな、とも思う。
ラズファードは施政の席を固辞したガダラルを手放さないために、極めて長期に亘る計画を打ち出した。もちろんそれ自体、要職である。アルタナ四国に皇国に属する間諜を冒険者として送り込み、それぞれの国の出来る限りの深い情報を集める。その情報が役立つのは、ラズファードの考える中で、一年後か、三年後なのかも知れず、ひょっとしたら十年後に生きるのかも知れない。
その間、ずっとラズファードの傍で勤め続ける。
どういうわけか、気が重くなった。
「アルタナ四国の相互関係を崩せるだけの深い事情に通じていたい。皇国は表立って直接手を下すことはしない。戦をする意思はないし、それによって逆に四国の結束が強まってしまっては逆効果だ。干渉を防ぎ、時間を稼ぐことが出来ればそれで充分だ」
ラズファードが得意になって喋っているのを黙って見ていた。ときどき、楽しそうに策謀をめぐらしているのを怖いと感じることもある。決して底は見えない、深淵を覗いているような錯覚に陥ることもある。
「ラズファード?」
「なんだ?」
「いや......聖皇となっても、御身は策謀に手を汚し続けるのか」
「汚すとは。聞こえが悪いな。それもすべて政事のうちだよ。大丈夫だ、お前たちがついていてくれる。それに」
「それに?」
ラズファードは言いかけて、笑って見せただけだった。
これで二度目だ。今日、ラズファードがその言を淀ませたのは。そこに悪意のようなものは全く感じられない。しかし、なんだか気分が悪かった。
その嫌な気分を押し流すように話を変えた。それ以上、諜報の任がどうという話を今はしたくない、少し考える時間が欲しいとも思った。
「目は、右目は、やはりだめなのか?ラウバーンが組織の移植が可能だと言っていたが」
「ああ。これはこのままでいい。必要ない。特に不自由もないしな」
対話するときは少し左寄りに立つように気をつけた。警護するときは、必ず右につく。そういう気遣いは必ずしたが、不自由がない、ということもないだろうと案じる。
このとき、ラズファードの盲しいた右目になにが映っているのかなど、想像すら出来るわけがなかった。
ナイズル島に巨人は在る。
島は、皇国本土の北西に位置し、かつてイフラマドと戦をしていた時代には海の砦としての役目を果たしていた。島の周囲は岩礁となっていて大船は寄せられず、複雑な潮流のぶつかり合いで常に波が荒く、小船でも近づくことが出来ない。つまり孤島の要害である。
島の中心には、高塔が一つそびえる。高塔はずん胴で、外からの入り口がない。地下の複雑な遺跡の構路を辿るか、極めて使用の制限された移送装置を経てでしか、ナイズル島の巨人のもとに辿りつく方法はなかった。
その塔の最上階に機関巨人は置かれている。
ガダラルはナイズル島の巨人のもとを訪うことなどそれまで数えるほどしかなかった。あっても、ラズファードの護衛だったり、またはその使いなど、限られた場合のみだった。
巨人開発が凍結されても技師たちは未だナイズル島にいる。
以前では反勢力の監視などを気にして、易々と行動できなかった頃が既に嘘のようである。ガダラルは役目のない日を選んでその場所へ足を運んだ。特別ラズファードの許可も必要としない立場だった。
訪ってから驚いた。すでに凍結されて長いのにも関わらず、現場はそのままに維持され、技術者たちは議論を重ね、図面と対峙し続けていた。技術者も人員が減っているが、今、ガッサドを中心として残った者たちは、ラズファードが最も信頼する人材とも言え、その者たちは皇都に比べれば決して居心地がいいとは思えない孤島で寝起きすることを自ら望んでしているようでもあった。
ガダラルがそれに驚いて「なぜですか」と問うと、ガッサドは「ラズファード様が決して巨人開発を諦めないことを知っているからです」と答えたのだった。そして笑い、「わたしにはこれ以外の仕事はないですから」と言った。
造りかけの機関巨人の姿があった。地から延びるように静かに佇む魔笛の柱群を改めて見て回った。
ガダラルがこの場所に自らの意志で赴いたのは、ラズファードの言った言葉のいくつかが腑に落ちずに気がかりのままだったからである。全く、ラズファードが抜け目のない男であることには変わりがなかった。増して、楽しそうに施政に力を惜しまず注いでいる。いつか彼が手に入れたイフラマドの膨大な遺産も、すでに国庫にすべて入れてしまった。彼が皇位に就くことが決まった以上、国のすべてが彼のものになるのだから一つにしてしまった方がいらぬ詮索をされることもないと考えたのだろう。そして尚、彼の方針は質実である。
ガダラルはしばらくの間、ただ魔笛を真下から見上げていた。未だ眠っている人工魔笛は力を隠したままで熱も光も帯びていない。これらが一度力を蓄えたなら、どれほどの物質的な力を発揮するかは以前にもラズファードから得意げに聞かされたので知っている。
最初は巨人の存在を善しとは思っていなかった。アルザビの解放、それが目下必要なことだと思っていた。それが、すっかりラズファードの熱に中てられてしまったのだ。彼のためになら、という想いが日に日に強くなった。この身命をくれてやってもいい、そう思うほどに。
ただ、互いに命を取りとめた虚言の調査遠征の帰還後から、ラズファードの内によくわからない謎めいた部分が深まっていることに気づいていた。なにかを言い出しては、黙り込む。そういうことが多くなった。なにか隠しているとか嘘を言おうとしている様子ではなく、ラズファード自身が酷く戸惑っている、という印象を受けた。
「どうされましたか、ガダラル殿」
技師ガッサドが近くに来ていた。
「すっかり見入っておりました」
「力を帯びない魔笛を見ていても、面白くないでしょうに」
「いいえ、オレにとって魔笛は常に特別なものです。魔笛はこの国の力の根源でしょう」
「まぁ、確かに。炎陀将殿」
ガダラルは苦笑して見せた。
「なにか、気になることでも?」
ガッサドは勘がいいようで、ガダラルの表情にあった暗さをなんとなく察したようである。
ガダラルはラズファードの戸惑いに深く踏み込むことが自身なら許されるのではないかと思いながら、それが出来ないでいた。ガダラルもまた、ラズファードに言い出せないでいることがあったからだ。
別に彼は自信がないわけではない。ラズファードにわずかな反感を抱いているわけでもないし、傍に仕えるようになって一度も攻撃的な感情を持ったこともない。ただ、過去にそれが原因で逃避したことがあるだけだ。ラズファードが皇位につくこと、それを望んでその人の傍に仕えてきたはずなのに。 また、身分不相応な劣等感でいっぱいになっているのを、何度ももみ消そうとしてきた。
なぜ魔笛を見に来たのか、気付いた。気持ちを戻すため。気持ちが大きく荒れていた頃、アルザビの魔笛を前に自問を繰り返した頃に戻りたかったからだ。暗く内に向かうばかりのとき、自身に投げかける疑問に殆ど意味はない。だが、不必要なものでもない。
そんなときにかつての名で呼ばれたことは、やたらすんなりと胸の奥に落ちてくるようだった。それを客観視して厄介だな、と思った。
「.......気になることがあります。ガッサドは機関巨人の理論の組み立てを間違えていたのではないかと、ラズファード様は仰っておりました。なにか、心当たりが」
「いいえ、つい先日、お会い致しましたが、そのような話は全く聞いておりません」
「そうですか」
「しかし、なにか迷っておられるご様子だったのはわかりました。これでも、皇子が産まれたときから存じ上げておりますから。ガダラル殿にも相談されていないのですか、あの方は」
「信用に足らぬ、ということはないと自負しているのですが」
今、自分は作り笑いをしている、というのをありありと感じていた。それが不服であるとか、物足りないのではない。自惚れている、と自らを戒めるべきだとすら思う。
ラズファードの望み。ずっと傍にいろと、長く仕えろと、その人はそう言った。忠誠を誓わせてその人は満足げだった。欲しいものをなんでも与えると言われた。そして、恐らく、愛された。
それにどう返すか、ずっと考えてきた。どう応えるべきか、迷ってきた。ラズファードが望んでいるのは、ただ忠実なだけの配下ではないはずだ。ただ言いなりになる側仕えでもなければ、すべてを自由に出来る決して妊娠しない女の代わりの身体でもない。
「貴方はオレに、ラズファード様が如何な立場になろうとも、友が必要だと、そう仰られた。もし、本当にオレが彼にとって必要なものなら」
ガッサドは目を逸らさず、相づちも挟まずにただ黙って聞いている。ガダラルはゆっくり言葉を選んだ。ゆっくり、ゆっくり曖昧な言葉を整理している。
「彼が皇位につかれたら、オレはこのままでいいのか、迷っています」
「それは」
諜報員を統べる任を提案され、今はその人員選別に関っていることは機密故に秘したままにした。本音を言えば、それも固辞したいとガダラルは思っていた。しかし、主君から与えられた任を、これも嫌だ、あれも嫌だと拒絶し続ける臣下など聞いたことがない。友といっても、決して世間一般にいう対等な立場ではないのだ。それを、ガダラルは先の調査遠征を境に強く自覚するようになっていた。ラズファードにとっての友とは、必要なとき、適した動きが出来る者でなければならない。
「彼は聡い。ひとたび周囲に認められ、即位した後には必ず善い施政を行うだろうと思う。そこにオレが必要なのだろうか、と考えるようになった」
更に言葉を選りすぐった。
「彼が即位されたら、やはりオレは軍に戻るべきだと思うのです」
「炎陀将に」
「いいえ、そうとは限りませんが、然るべき場所に。結局、オレは戦地にあるべきだと思うのです。貴方が技師として彼の望み沿うことのように、それが適所というものではないのかと。それが真実に主にの傍に仕えるということではないのかと」
「しかし、ラズファード様がそれをお認めになるか、どうか」
きっと、手放そうとしないだろう。ラズファードの貪欲さには簡単には抵抗出来そうにない。それに浸るのはやや苦く、やや甘い。ラズファードに軽口が利ける位置、そう望まれ、甘まえてきたのは認める。だがそれではだめだ、またあの頃のように心のどこかが腐ってしまう。
あの頃と変わりはない。より眩しき者、輝かしき者の傍では陽が当たらなくなって腐ってしまう、自身のあるべきなのは施政の場ではない。将として、魔道士として力を尽くしたい。そう思わねば、そうあらねば、腐食してしまう。
「今日は気持ちの整理をつけたくて、魔笛を見に来たつもりだったのですが、貴方に話を聞いて頂きたかったのかも知れない」
「ええ、私でよければ。ですが、気になります。あの方が実力で手に入れたものは多いが、それ以前に奪われたものが多くて、過剰に敏感なところがあられる。ガダラル殿、貴方を傍に置くことを諦めるかどうか」
なにもラズファードを失望させようと思うのではない。甘さを恐れ、苦さに自惚れる。それを嫌だと思うだけだ。
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かすかな迷い、だろうか。
ラズファードは言葉を探すようにしばし黙していた。
得意になって持論を展開させているときのラズファードは目が輝く。そう、陽光の当たった黒曜石の表面のように輝くのだ。それが、どうだ。伏目がちにして、言い淀む。再び同じ言葉を口にした。「俺は間違っているだろうか.......」それから少しの間、ラズファードは掌で右目を覆ったままにしていた。「痛むのか」と聞かれると、黙って首を横に振るだけだった。
「アルタナ諸国は大海を隔てた対岸の存在だ。その遥か対岸の国と争うなど、どれほどの空費を重ねることになるというのか。その無意味がわかるだろう、ガダラル?」
「オレは.......オレは、皇国が西方諸国との関わりを閉ざしたことで、発展を妨げたのだと考えてきた。他と関わることは、悪く傾くこともあるが、学ぶことも必ずある。確かに皇国はいくつもの面で諸国よりはるかに優れた技術を持っているとは思うが、それだけではないはずだ」
それはラズファードの傍で施政を見てきた者としての意見とも、長く軍事に関わってきた者としての意見とも違った。もっと別の、興味とか、関心から湧いてくることだった。
まだ彼が炎陀将としてアルザビの魔笛防衛に就いていた頃、ウィンダスから来訪者があったときのことはよく覚えている。カラババと名乗る魔道士がアルザビの魔笛の接触を試みて、他の陀将らと共にそれの阻止に当たったことがあった。その魔道士の鮮やかな魔法を見たとき、彼は確信した。魔道士は名を偽っている、その正体が彼が西方の賢者と呼んでいる相手だと、はっきりと確信した。極めて速い短い詠唱、彼が行う高位魔法よりも更にその上をいく上級の魔法、改めて世界は広い、そう思った。
「そうか」
やはりラズファードは短く答えただけだった。
「間諜を行う者を、西方諸国に送り込もうと思っている。冒険者の姿態に仕上げて、というよりは、すっかり冒険者そのものにするつもりだ。面白い案だろう?興味はないか?」
「興味なんて」
ない、とは言い切れなかった。実際、ガダラルは過去に西方の賢者から書簡にて遊学の誘いを受けたことがある。成長過程の魔道士として興味はおおいにあったが、あまりに現実味が薄かった。それらはすべて素性を隠した上でのことだったからだ。もし賢者が彼の素性を知っていたら、警戒どころか敵対する者と見なすだろう。なにしろ彼は今やラズファードの近衛の一人である。その頃のか細かった賢者との関わりも、陀将の任を解かれたときに途切れさせてしまった。
「ガダラル、お前を見ていると諸外国に興味があるのがわかるよ。確かに、それらと交われば我が国も得るものは大きいやも知れん。しかしだ」
ラズファードは確かな足取りで再びガダラルの側に寄り、その肩に手を置いた。
「二十年前の水晶大戦で西方諸国は成り行きの結束を深めただけのことだ。言わば、それは呉越同舟にすぎない。諸国は人外の存在に脅かされ、結束せざるを得ない立場に追いやられた。わずか二十年前のことだぞ。その結束が時と共に脆くなっているのは、対岸の我が国から見ていてもよくわかる。西方の四国と、我が一国ぞ、今は西方の国に触るべきではない。わかるか、放っておいても西方諸国は力を弱める」
「それが、お前がアルザビの門の解放を最後まで拒んだ理由か」
「そうだ。通商に最も積極的だった連邦の腹は見えていたからな。理由はなんでもよかったのだろう。アルザビの門は決して開いてはならなかったのだ」
「しかし、そんな話を今更しても遅い。当時、開国を唱えた者たちを抑えられなかったのは事実じゃないか。そして今のアトルガンはそれを唱えた者たちの思惑通りの姿になっているのか」
ガダラルが無遠慮に問うと、ラズファードはむっとした顔つきになり、手を引っ込めた。挑発的なことを言ってしまったか、ガダラルは思ったものの、それが心の乱れから出てきたものだとあとから気づいても遅かった。
「間諜を行う者たちを総括する役目をガダラル、お前に任せたいと思うのだが」
「オレが?間諜?」
「いやいや。お前に諜報が出来るとは思っていないよ。飽く迄もそれらの元締めだ。集めた情報をまとめ、俺のところまで上げる。判断を下す権限ももちろん与える。先ずは人選からになるが」
「なぜ、オレに?」
「陀将として勤めてきた間に多くの冒険者と接してきただろう、そのときの感覚に恃みたいと思うからだ。先の長い計画になるぞ、これは」
なんとなく、ラズファードの意図のようなものが見え隠れしている、と思った。それを自惚れだな、とも思う。
ラズファードは施政の席を固辞したガダラルを手放さないために、極めて長期に亘る計画を打ち出した。もちろんそれ自体、要職である。アルタナ四国に皇国に属する間諜を冒険者として送り込み、それぞれの国の出来る限りの深い情報を集める。その情報が役立つのは、ラズファードの考える中で、一年後か、三年後なのかも知れず、ひょっとしたら十年後に生きるのかも知れない。
その間、ずっとラズファードの傍で勤め続ける。
どういうわけか、気が重くなった。
「アルタナ四国の相互関係を崩せるだけの深い事情に通じていたい。皇国は表立って直接手を下すことはしない。戦をする意思はないし、それによって逆に四国の結束が強まってしまっては逆効果だ。干渉を防ぎ、時間を稼ぐことが出来ればそれで充分だ」
ラズファードが得意になって喋っているのを黙って見ていた。ときどき、楽しそうに策謀をめぐらしているのを怖いと感じることもある。決して底は見えない、深淵を覗いているような錯覚に陥ることもある。
「ラズファード?」
「なんだ?」
「いや......聖皇となっても、御身は策謀に手を汚し続けるのか」
「汚すとは。聞こえが悪いな。それもすべて政事のうちだよ。大丈夫だ、お前たちがついていてくれる。それに」
「それに?」
ラズファードは言いかけて、笑って見せただけだった。
これで二度目だ。今日、ラズファードがその言を淀ませたのは。そこに悪意のようなものは全く感じられない。しかし、なんだか気分が悪かった。
その嫌な気分を押し流すように話を変えた。それ以上、諜報の任がどうという話を今はしたくない、少し考える時間が欲しいとも思った。
「目は、右目は、やはりだめなのか?ラウバーンが組織の移植が可能だと言っていたが」
「ああ。これはこのままでいい。必要ない。特に不自由もないしな」
対話するときは少し左寄りに立つように気をつけた。警護するときは、必ず右につく。そういう気遣いは必ずしたが、不自由がない、ということもないだろうと案じる。
このとき、ラズファードの盲しいた右目になにが映っているのかなど、想像すら出来るわけがなかった。
ナイズル島に巨人は在る。
島は、皇国本土の北西に位置し、かつてイフラマドと戦をしていた時代には海の砦としての役目を果たしていた。島の周囲は岩礁となっていて大船は寄せられず、複雑な潮流のぶつかり合いで常に波が荒く、小船でも近づくことが出来ない。つまり孤島の要害である。
島の中心には、高塔が一つそびえる。高塔はずん胴で、外からの入り口がない。地下の複雑な遺跡の構路を辿るか、極めて使用の制限された移送装置を経てでしか、ナイズル島の巨人のもとに辿りつく方法はなかった。
その塔の最上階に機関巨人は置かれている。
ガダラルはナイズル島の巨人のもとを訪うことなどそれまで数えるほどしかなかった。あっても、ラズファードの護衛だったり、またはその使いなど、限られた場合のみだった。
巨人開発が凍結されても技師たちは未だナイズル島にいる。
以前では反勢力の監視などを気にして、易々と行動できなかった頃が既に嘘のようである。ガダラルは役目のない日を選んでその場所へ足を運んだ。特別ラズファードの許可も必要としない立場だった。
訪ってから驚いた。すでに凍結されて長いのにも関わらず、現場はそのままに維持され、技術者たちは議論を重ね、図面と対峙し続けていた。技術者も人員が減っているが、今、ガッサドを中心として残った者たちは、ラズファードが最も信頼する人材とも言え、その者たちは皇都に比べれば決して居心地がいいとは思えない孤島で寝起きすることを自ら望んでしているようでもあった。
ガダラルがそれに驚いて「なぜですか」と問うと、ガッサドは「ラズファード様が決して巨人開発を諦めないことを知っているからです」と答えたのだった。そして笑い、「わたしにはこれ以外の仕事はないですから」と言った。
造りかけの機関巨人の姿があった。地から延びるように静かに佇む魔笛の柱群を改めて見て回った。
ガダラルがこの場所に自らの意志で赴いたのは、ラズファードの言った言葉のいくつかが腑に落ちずに気がかりのままだったからである。全く、ラズファードが抜け目のない男であることには変わりがなかった。増して、楽しそうに施政に力を惜しまず注いでいる。いつか彼が手に入れたイフラマドの膨大な遺産も、すでに国庫にすべて入れてしまった。彼が皇位に就くことが決まった以上、国のすべてが彼のものになるのだから一つにしてしまった方がいらぬ詮索をされることもないと考えたのだろう。そして尚、彼の方針は質実である。
ガダラルはしばらくの間、ただ魔笛を真下から見上げていた。未だ眠っている人工魔笛は力を隠したままで熱も光も帯びていない。これらが一度力を蓄えたなら、どれほどの物質的な力を発揮するかは以前にもラズファードから得意げに聞かされたので知っている。
最初は巨人の存在を善しとは思っていなかった。アルザビの解放、それが目下必要なことだと思っていた。それが、すっかりラズファードの熱に中てられてしまったのだ。彼のためになら、という想いが日に日に強くなった。この身命をくれてやってもいい、そう思うほどに。
ただ、互いに命を取りとめた虚言の調査遠征の帰還後から、ラズファードの内によくわからない謎めいた部分が深まっていることに気づいていた。なにかを言い出しては、黙り込む。そういうことが多くなった。なにか隠しているとか嘘を言おうとしている様子ではなく、ラズファード自身が酷く戸惑っている、という印象を受けた。
「どうされましたか、ガダラル殿」
技師ガッサドが近くに来ていた。
「すっかり見入っておりました」
「力を帯びない魔笛を見ていても、面白くないでしょうに」
「いいえ、オレにとって魔笛は常に特別なものです。魔笛はこの国の力の根源でしょう」
「まぁ、確かに。炎陀将殿」
ガダラルは苦笑して見せた。
「なにか、気になることでも?」
ガッサドは勘がいいようで、ガダラルの表情にあった暗さをなんとなく察したようである。
ガダラルはラズファードの戸惑いに深く踏み込むことが自身なら許されるのではないかと思いながら、それが出来ないでいた。ガダラルもまた、ラズファードに言い出せないでいることがあったからだ。
別に彼は自信がないわけではない。ラズファードにわずかな反感を抱いているわけでもないし、傍に仕えるようになって一度も攻撃的な感情を持ったこともない。ただ、過去にそれが原因で逃避したことがあるだけだ。ラズファードが皇位につくこと、それを望んでその人の傍に仕えてきたはずなのに。 また、身分不相応な劣等感でいっぱいになっているのを、何度ももみ消そうとしてきた。
なぜ魔笛を見に来たのか、気付いた。気持ちを戻すため。気持ちが大きく荒れていた頃、アルザビの魔笛を前に自問を繰り返した頃に戻りたかったからだ。暗く内に向かうばかりのとき、自身に投げかける疑問に殆ど意味はない。だが、不必要なものでもない。
そんなときにかつての名で呼ばれたことは、やたらすんなりと胸の奥に落ちてくるようだった。それを客観視して厄介だな、と思った。
「.......気になることがあります。ガッサドは機関巨人の理論の組み立てを間違えていたのではないかと、ラズファード様は仰っておりました。なにか、心当たりが」
「いいえ、つい先日、お会い致しましたが、そのような話は全く聞いておりません」
「そうですか」
「しかし、なにか迷っておられるご様子だったのはわかりました。これでも、皇子が産まれたときから存じ上げておりますから。ガダラル殿にも相談されていないのですか、あの方は」
「信用に足らぬ、ということはないと自負しているのですが」
今、自分は作り笑いをしている、というのをありありと感じていた。それが不服であるとか、物足りないのではない。自惚れている、と自らを戒めるべきだとすら思う。
ラズファードの望み。ずっと傍にいろと、長く仕えろと、その人はそう言った。忠誠を誓わせてその人は満足げだった。欲しいものをなんでも与えると言われた。そして、恐らく、愛された。
それにどう返すか、ずっと考えてきた。どう応えるべきか、迷ってきた。ラズファードが望んでいるのは、ただ忠実なだけの配下ではないはずだ。ただ言いなりになる側仕えでもなければ、すべてを自由に出来る決して妊娠しない女の代わりの身体でもない。
「貴方はオレに、ラズファード様が如何な立場になろうとも、友が必要だと、そう仰られた。もし、本当にオレが彼にとって必要なものなら」
ガッサドは目を逸らさず、相づちも挟まずにただ黙って聞いている。ガダラルはゆっくり言葉を選んだ。ゆっくり、ゆっくり曖昧な言葉を整理している。
「彼が皇位につかれたら、オレはこのままでいいのか、迷っています」
「それは」
諜報員を統べる任を提案され、今はその人員選別に関っていることは機密故に秘したままにした。本音を言えば、それも固辞したいとガダラルは思っていた。しかし、主君から与えられた任を、これも嫌だ、あれも嫌だと拒絶し続ける臣下など聞いたことがない。友といっても、決して世間一般にいう対等な立場ではないのだ。それを、ガダラルは先の調査遠征を境に強く自覚するようになっていた。ラズファードにとっての友とは、必要なとき、適した動きが出来る者でなければならない。
「彼は聡い。ひとたび周囲に認められ、即位した後には必ず善い施政を行うだろうと思う。そこにオレが必要なのだろうか、と考えるようになった」
更に言葉を選りすぐった。
「彼が即位されたら、やはりオレは軍に戻るべきだと思うのです」
「炎陀将に」
「いいえ、そうとは限りませんが、然るべき場所に。結局、オレは戦地にあるべきだと思うのです。貴方が技師として彼の望み沿うことのように、それが適所というものではないのかと。それが真実に主にの傍に仕えるということではないのかと」
「しかし、ラズファード様がそれをお認めになるか、どうか」
きっと、手放そうとしないだろう。ラズファードの貪欲さには簡単には抵抗出来そうにない。それに浸るのはやや苦く、やや甘い。ラズファードに軽口が利ける位置、そう望まれ、甘まえてきたのは認める。だがそれではだめだ、またあの頃のように心のどこかが腐ってしまう。
あの頃と変わりはない。より眩しき者、輝かしき者の傍では陽が当たらなくなって腐ってしまう、自身のあるべきなのは施政の場ではない。将として、魔道士として力を尽くしたい。そう思わねば、そうあらねば、腐食してしまう。
「今日は気持ちの整理をつけたくて、魔笛を見に来たつもりだったのですが、貴方に話を聞いて頂きたかったのかも知れない」
「ええ、私でよければ。ですが、気になります。あの方が実力で手に入れたものは多いが、それ以前に奪われたものが多くて、過剰に敏感なところがあられる。ガダラル殿、貴方を傍に置くことを諦めるかどうか」
なにもラズファードを失望させようと思うのではない。甘さを恐れ、苦さに自惚れる。それを嫌だと思うだけだ。
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( 2008年07月08日 10:34 [Edit] )
BVLGARI | URL | Fm81lUyk
ガダラル、3の倍数のときだけアフォになってみろ!!と、いいたい具合です。ガダのネガは罠ですね〜><;
書き手(僕)の都合に振り回されているのだろうけど、意思がころころ変わるのが見ていて痛い.......彼に謝りたいよ、僕わ(つд`)
もう、なにを考えようとしてもありがちなことしか思いつきません。
別にラズ様を不具にしなくてもよかったような気もします。
疲れると僕の弱い右目が見えずらくなる、そんなとこから出てきたネタです。
そちらの子狸様は胃薬、Uchino覇王丸はアリナミンA錠ですかね......
( 2008年07月09日 00:30 [Edit] )
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